【書評/感想】幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える~社員が幸福であれば、利益はあがる~

目次

“社員が幸福だから利益が上がる”という理論及び実例が詰まった次世代の経営本

今回は”幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える”という本を読みました。

おすすめ度は★★★★です。

★     読まないほうがよい
★★    微妙
★★★   人によってはためになる。
★★★★  良書。かなりおすすめ
★★★★★ 誰でも読むべき。我が人生のバイブル

利益が上がる⇒社員が幸せになるというのが一般的ですが、
この本が提唱するのは社員が幸せになる⇒利益が上がるという因果です。

「社員が幸せになることが目的だとしても、結果的に利益が出るなんて最高じゃん!!」
そう思い、この本を読み始めました。めちゃくちゃ素敵な世界ですよね。

社員が幸せであることにより、いきいきしてイノベーションや生産性が上がり、結果として利益が上がる
みんなが理想とするであろうこの流れをどのように作り出すことができるのかということに興味を持ちながら読み進めました。

この本は最初の1章で幸福学という幸福を研究する学問の理論の紹介から始まります。
そして、2章で実際に実例としての企業を、理論の観点からなぜそのような現象になっているかを解明し、
3章では幸福学という観点から、経営学を再構築するという流れになっております。

まずは理論を学び、実例をみて、そして経営学問として考える
とても読みやすい流れとなっております。

幸福は4つの因子(やってみよう・ありがとう・なんとかなる・ありのままに)により構成される

第一章では幸福とはなにかというテーマを幸福学を用いながら紐解かれています。

この本では幸福は4つの因子からなると述べています。

第1因子 やってみよう因子~自己実現と成長の因子~

文字通り、やってみようという気持ちがあればあるほど幸せという因子です。

自分の強みがあるか、強みを社会で生かしているか、いまの自分は本当になりたかった自分か、よりよい自分になるべく努力してきたかなどの質問に、
“そう思う”と答えれば答えるほど、やってみよう因子の数値は上がっていくのです。

やりがいのある仕事やわくわくできる趣味を持ち、目標に向かって努力・学習している人は幸せであり、
それらを通じて成長の実感や自己実現などの達成感が得られれば、幸福度がさらに高まることは具体的な数値によって裏付けられています。

幸福学×経営学より引用

自己実現や成長に関する部分で満足度が高いことがやってみよう因子につながっているのですね。

経営の観点でいえば社員自身が自分の強みを把握し、会社・社会に対して価値を発揮できていると実感し、より高いレベルを目指して前向きに頑張っている状態などでしょうか。

たしかに自分自身の経験と照らし合わせてみても、”やってみよう!”と前向きに思えているときはとても楽しく仕事ができている気がします。

第2因子 ありがとう因子~つながりと感情の因子~

この因子は他者との心の通う関係に関する因子です。

自分が誰かを喜ばせたり、誰かから感謝されたりという状態であればあるほどありがとう因子が高まります。

人から感謝されたり、自分が誰かを喜ばせたりということをすることにより、人は幸せを感じるのですね。

会社でいうのであれば、社員同士がお互いにありがとうを言い合う文化であったり、企業によってはありがとうポイントのようなものを運用して、
感謝が飛び交うような企業文化を作るなどが考えられます。

余談ですが、企業文化として感謝を取り入れるためのwebサービスなどもリリースされています。

Unipos代表斉藤氏が語る経営メッセージを人事の負荷なく現場に浸透させるTips

この記事で紹介されているUniposは週のはじめに各社員が400ポイント与えられ、業務の中でありがとうの気持ちや感謝の気持ちをポイントにメッセージを添えて送るシステムです。

ユニークなのはこのポイントがお金に換金できることですね。上記は日本のサービスですが、もともとはアメリカにこういったピアボーナスという概念のサービスがあり、そちらのサービスは溜まったポイントを商品やサービスなどに引き替えることが可能となっています。

こういったwebサービスを使うことで、感謝し合う基盤を作り、結果的に会社全体のありがとう因子を上げることも可能となります。

実際に同僚や同じ部署・チームの人からありがとうなんてメッセージをもらったら嬉しいですよね。誰から言われても嬉しいのだから、みんな言い合うべきなんじゃないかと思います。

ちなみに僕は意識をして感謝を言葉で伝えるようにしています。自分の一言で誰かの幸福度が上がるなら安いものですもんね。思っている感謝は口に出していきましょう。

第3因子 なんとかなる因子~悲観的にならず楽観的に因子~

なんとかなるさーと思っていれば思っているほど幸せだよという因子です。

たしかに悲観的な人間よりも楽観的な人間のほうが幸せですよね。時々、めちゃくちゃポジティブすぎて、いつも幸せオーラ満開の方とかいますもんね。

また、なんとかなるという因子は、第1因子や第2因子にもいい影響を与えます。

楽観的で前向きであるからこそ、やってみよう!という気持ちになりますし、
ポジティブに考えられるからこそ、ありがとう!という気持ちを見つけ伝えることができるのですね。

第4因子 ありのままに因子~比較ではなく、ありのまま因子~

「ありの~ままの~姿見せるのよ~」

なんてアナと雪の女王で歌っていましたが、めちゃ重要なんですよね。最後の因子はありのまま因子です。

第1因子や第2因子を大事にしているつもりでも、人は「あの人より出世したい」であったり、「みんなにいい人と思われたい」と他人との比較の中で自分を判断しがちです。

他人との比較をやめ、自分自身がありのままでいる状態こそが幸せにおいて重要なのですね。

昔、僕は他人と比べてばかりで、誰かに負けたりすると癇癪を起こすほどでした笑
しかし今は比べるという感情を手放すことによって、充実してかなり平穏な気持ちで過ごせるようになりました。

他人と比べるときりがないんですよね。

他人と比べて金持ちになったとしても、上には上がいるわけでありまして、きりがありません。

他人との比較による見えないゴールを追うのではなく、自分の人生のゴールを自分自身で決めることがとても重要です。

ここらへんは自己マスタリーであるビジョン・ミッション・行動指針あたりを考えてみると自分のありのままがより把握できるようになってきます。
また、別の記事でお話しますね。

幸福度が高ければ高いほど、社員はハイパフォーマーになる

海外の研究によるとこの幸福の因子がバランスよく高い社員ほど、ハイパフォーマーであることが確認されたようです。

「幸福度の高い社員ほど、創造性が高く、仕事の効率も高く、求められた以上の働きやソーシャル・サポートを惜しまない。

欠勤率や離職率は低く、上司や顧客から高い評価を受ける傾向にある」

だそうでして、最高すぎますよね。

ちなみにクリエイティビティについても、幸福度が高いと低い人に比べて3倍創造性が高いという研究結果もあり、幸福度が高いことが社員のパフォーマンス、ひいては経営に直結するのではないかということが言われています。

従業員満足度(ES)と従業員幸福度は全く異なる尺度(職場に限らず人生全体を考える)

このような話をすると従業員満足度と勘違いしてしまう人も多いようなのですが(というより、私が本を読みながら勘違いをした張本人)

著者によると従業員満足度と従業員幸福度は全く違うものとのことです。

満足度は職場に限った満足度を測る指標ですが、従業員幸福度は人生全体の幸福度を測る指標です。

職場に限らず人生全体を捉えるというのが大きな違いなのですね。

社員の職場以外の家族や趣味、生活や余暇の過ごし方なども含めて幸福度は決定していきます。この部分まで重視して社員と向き合えるかいなかが大きなポイントとなりあそうです。

私生活で大きな問題を抱えて苦しんでいる人に、仕事で成果を上げろとといっても、土台、無理な話でしょう。

そんな人が目の前の作業に無心で打ち込んだり、働きがいを感じたりして、すぐれたパフォーマンスを発揮できるとはとても思いません。

たしかにそう言われてみるとそうですよね。私生活も充実しているからこそ、仕事も充実する。逆に私生活で問題があれば仕事に集中できません。

恋人に振られた日は仕事に集中できませんよね。極端にいえばそういうことなのだと思います。

ホワイト企業に関する因子は”いきいき””のびのび””すくすく”の3つ

ここまでは個人の幸せに関して紹介をしてきましたが、ここからは会社側でホワイト企業に共通する因子が紹介されています。

いきいき因子
・私は、この会社で働くことをとうして喜びを感じている
・私は、いまの仕事に誇りを持っている
・私は、休日明けに出勤するのが楽しみだ
・私は、仕事を通じて、毎日が充実している

のびのび因子
・私は、会社から大切にされている実感がある
・私は、自分の努力や素質を認められていると感じている
・私は、職場において、自由に発言できる
・私は、一緒に働いている人たちに対して感謝している

すくすく因子
・私の仕事は、能力を発揮でき、チャレンジしがいがある
・私の職場は、スキルや能力を伸ばす機会や風土がある
・私は、仕事を通じて、自分が目指す姿に近づいている
・私は、仕事を通じて、人として成長している

前述の幸せの4つの因子は幸せを因子分析したものですが、
上記の因子はホワイト企業を因子分析したものです。

つまりホワイト企業と呼ばれる企業の特徴は上記3つの因子にて説明されるということですね。

いきいき因子は今の仕事であったり、職場で働くことに対してどれほどやりがいを持っているかという因子です。
働きがい因子といってもいいかもしれませんね。

のびのび因子は心理的安全性に近しい概念です。
会社から大切にされているという実感や、自由に発言できる職場というのはまさしく心理的安全性が確保されている職場ですね。

すくすく因子は仕事を通じた成長に焦点を当てた因子です。
現在の仕事を通じて、自己実現や成長をしている感覚というものがここでは重視されています。

総じてまとめると、
「仕事にやりがいを感じ、会社・職場での心理的安全性が確保されており、自己実現・成長が得られる会社」
というのがホワイト企業ということですね。

個人的には想像通りの結果でした。上記3つが確保されていれば、人はとても良い状態で働くことができ、パフォーマンスも上がるかと思います。

世間にて想像されている「ホワイト企業=短時間労働」といったイメージとは違いますね。
世間はやりがいであったり、成長であったりに比重を置いておらず、時間だけに絞ってブラック・ホワイトを判断しがちです。

逆にいえば、現在の社会ではやりがいであったり、自己成長の素晴らしさに気づいていない人が多い世の中であり、
気づける機会すらもない(会社は社員を駒のように扱うため)ということかと個人的には思っています。

ホワイト企業の実例:西精工株式会社~社員の90%が月曜日の出社にワクワクする会社~

これまでご紹介してきた幸福やホワイト企業に関する因子を参考としながら、
ホワイト企業の事例が紹介されています。

取り扱われているのは、西精工株式会社、ぜんち共済株式会社、有限会社アップライジング、ダイヤモンドメディア株式会社の4社となっております。

どの事例も非常に興味深かったのですが、今回は僕が最も感銘を受けた西精工株式会社の事例を軽くご紹介します。

西精工株式会社は精密なボルトなどを製造する会社です。

社員アンケートでは、
「わたしは、当社の社員で幸せである」という質問に対して、97.5%が非常にそう思う、そう思うと答えたそうです。

また、「毎週月曜日、出社するのがワクワクする」という質問に対しても、非常にそう思うとそう思うをあわせて、90%を超えているようです。

一般的にはサザエさん症候群なんて呼ばれますが、休み明けの月曜日は憂鬱なものですよね。
月曜が楽しみで出社がワクワクするなんて、とても幸せな状態ですよね。

ポイント1:大家族主義経営

西社長は大家族主義経営を理念として掲げています。

この理念は社員はもちろん、社員の家族も含め、みんなを幸福にする経営をしようという考え方です。

2006年時点に大家族主義経営という経営理念を発表したそうです。

「社員一人ひとりの幸福が、私の一番の幸福です。

会社に関わるすべての人の幸福を追求して、みんなで物心ともに豊かになりましょう」

この理念を社長自ら宣言することで、社内の空気はだんだんと変わり始めたそうです。

ポイント2:毎朝1時間の考える朝礼

理念を語るだけでは社内に浸透しません。浸透させるところにどんな経営者も頭を悩ませているはずです。

西精工株式会社は毎朝1時間もの時間をかけて、考える朝礼というものを実施することにより、
現場へ理念の浸透を図ったそうです。

経営理念と創業の精神を全員で唱和したあと、フィロソフィーの中から1項目を選び、3~4人のグループに分かれてディスカッションを実施。

お互いに理念のどの部分ができているかを評価し合ったり、自分の経験に置き換えて理念を振り返ったり、自分が今の業務で抱えている問題を理念に照らし合わせながら解決策をみんなで考えたりといったことをするようです。

その後、グループごとに発表を実施し、質疑応答、総括といった流れで1時間の朝会を終えるそうです。

普通の会社では社員が理念を振り返る機会なんて、四半期に1回程度なのではないでしょうか?
四半期に1回しっかりと振り返っていても立派なほうだと思います。普通の会社であれば理念は形骸化して、思い出すことなんかないですよね。

それに対して、西精工株式会社は毎朝理念を振り返っているというのは、もはややりすぎなんじゃないかというレベルですよね。
理念に対して、自分の行動であったり経験を振り返ったり、現在の問題を共有・解決し合うのは、理念を自分事化する上で欠かせない仕掛けだなと感じます。

 

http://www.nishi-seiko.co.jp/company/vision/

ちなみにHPの理念をみてみると(20180813時点)
創業の精神というものと、経営理念(ミッション、ビジョン、行動指針)が書かれています。

これらの理念に沿って、朝会が行われているのですね。

実際の朝会の様子は下記URLへ。

http://www.nishi-seiko.co.jp/blog/20140421/

ポイント3:社長との飲み会も飲みニケーションではなく対話の場

また、西社長は年間100日以上を社員との飲み会に費やしているそうです。

それだけ聞くと、飲みニケーションでわいわい飲み会をやっているのかなと感じますが、
西精工株式会社は一味違います。

親睦を深めることが目的ではなく、西社長によっては、あくまで理念の共有・浸透を磨き上げる”対話”の一環。

だから、業務時間外であっても、話題はもっぱら”仕事”に集中する。

社員とひざを突き合わせ、仕事や会社について腹蔵なく語り合う機会が、大家族主義経営を円滑に進めると西社長は確信しているのだ。

上記記述からわかるとおり、飲み会は理念浸透を目的とした対話の場として機能しているようです。

理念浸透に対して、かなり重要度をあげて取り組んでいることが伺えますね。

1社のみ紹介をしましたが、他の3社も非常に興味深いのでもし興味があれば本を購入し読んでみてください。

現代の経営における問題となる3つの病

3章と4章では経営学の観点から、次に目指すべき姿について書かれています。

経営学が生んだ3つの病という名前で、現代の経営における問題点が述べられています。

手法病~手法を追い求め目的を見失う~

経営学はよりよい経営を行うための学問ですが、経営の在り方よりも、どのように経営するかという手法に偏ってしまっています。

本来は在り方があってこその実現するための手法なのですが、手法自体が目的化されてしまっているのですね。

計画病~なんでも定量的にマイルストンを置こうとする~

計画病はなんでもかんでも定量的に把握し、マイルストンを置きながら計画することに囚われてしまっていることを指しています。

売上や利益など数字で測ることを重視するあまり、やる気やワクワク感など数値化しにくい部分や経営理念、長期的なビジョンなどが疎かにされがちです。

これは資本主義が進みすぎた弊害でもありますね。期間ごとに利益や売上を株主からプレシャーをかけられるため、なかなか長期的なビジョンであったり経営理念に気が回りにくくなってしまいがちになります。

計画病の弊害として分析病もあげており、ポーターのマーケティング理論に対するミンツバーグの見解が面白かったのでご紹介します。

ポーターはポジショニング戦略といって他者に比較して自社がどのような戦略を取るべきかという考え方をしています。

つまり、他社のポジションを考えてから、自社のポジションを考えます。

それに対してミンツバーグという経営学者は異を唱えているのですね。

「競争に焦点を絞ることで、ビジョンを矮小化し、戦略における創造性を抑えてしまった」

深いですよね。他との比較をしすぎてしまうが故に、自分自身の戦略が影響されすぎ、長期的な視点であったり自社としてのあるべき姿を練っていきたいですね。

分離病~働かせる人と働く人など分離をしすぎ問題~

従来の経営学は経営者が労働者を効率よく働かせるという観点から学問が出来上がっています。

そのため、働く側と働かせる側を分離して、多くの理論が構築されているのですね。

アメリカでおこなわれている職務記述書(job description(ジョブ・ディスクリプション))なども分離の色が出ています。
職務ごとに分けることで個々の責任はわかりやすくなる一方、三遊間のゴロのように、責任が曖昧な事象が発生した際に、押し付けあいになってしまう懸念もあります。

このように分離しすぎているんじゃないかとこの本ではいっているのですね。

これからの経営における4つのポイント

現在の経営における問題点では前述しました。ここからはこれからの経営における4つのポイントをみていきます。

1.自覚 ⇒深く自らを認識し、感じ取る
2.共鳴 ⇒うちから湧き上がってくる使命を原動力とする
⇒同僚を超え、同苦を味わう仲間となる
3.小欲 ⇒利益はあくまでも結果として捉える
4.畏敬 ⇒自己を超えた大きな関係性の中で自分と自分たちを捉える

自覚は自社のビジョンやミッションをしっかりと気づくといった部分ですね。

共鳴はビジョンやミッションを個人を超えて組織として共有していくという形です。

小欲は利益を目的にするのではなく、ビジョン・ミッションを達成している状態の結果として利益を捉えるといったイメージですね。

畏敬は会社単体として考えるのではなく、社会や自然といった広さで経営を捉えていくという考え方です。

このような要素が次世代の経営では重要だという締めくくりをされています。

社員が幸福だから利益が出るという因果が当たり前になって欲しい

個人的にこの本には感銘を受けました。

幸福だからこそ利益がでるという因果が世の中で当たり前になれば、
経営者の考え方も、労働者の働くことに対する考え方も、大きくいい方向に変わると思うのです。

まだまだ、利益偏重の考え方が世の中では主流ですが、
このような分野の研究が進んだり、実践する企業の業績が上がり注目され続けることで、
だんだんと世の中のデファクトスタンダードになっていったらなと思います。

また、自分自身としても、会社や事業において働いている自分や周りの幸福にフォーカスを当てながら、
いい影響を与えあっていきたいですね。

ではまた。

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