【臨床心理学】ケースフォーミュレーション&アセスメントの3ステップ

臨床心理学的な活動って?

前回の記事では、臨床心理学は個人や社会が抱える問題を様々な視点からとらえ、改善を図る学問で、専門的な知識や経験を生かしながらサポートをしていく学問であることを紹介しました。さらに、臨床心理学の活動である実践活動・研究活動・専門活動を紹介しました。この3つの中でも特に実践活動は臨床心理学の基本となります。

ところで、皆さんは臨床心理士がどのようにクライエントの問題解決に対して取り組んでいるかご存知でしょうか?
臨床心理学の実践活動はクライエントの問題解決のためのサポートを実際に行うことです。その過程は、対象となる問題を見極めるアセスメントを行い、問題のメカニズムに関する仮説を立てて、介入(実際に問題解決を行う)を行います。臨床心理士はこの様にしてクライエントの問題解決に取り組んでいるのです。
今回はその中のアセスメントについて取り上げます。

【臨床心理学第1回】問題把握と対処法がカギ!臨床心理学における実践活動とは?

アセスメントとは?

アセスメント(査定)または心理アセスメントとは心理的援助を行う際の初期に行われる作業です。クライエントの情報を収集・分析し、問題についての総合的な評価を行います。アセスメントは心の問題を解決するための介入方法を検討するのに必要なプロセスなのです。

「アセスメント=診断」として捉えられがちですが、アセスメントと診断は異なります。精神医学では心の問題を病気として捉え、診断します。一方で臨床心理学では病気と診断されないような問題(引きこもりなど)も扱います。また、心の問題以外に、クライエントのパーソナリティーや生活環境など、様々な情報を調査し、アセスメントを行います。つまり、心の問題のみに着目するのが診断であり、心の問題以外に様々な情報にも着目するアセスメントとでは性質が違うことがわかります。

ケースフォーミュレーションは3つのステップに分けられる

ケースフォーミュレーションとは、クライエントの問題に対して仮説を立て、実際に問題解決のサポートを行う際に反映させることです。目的地にたどり着くための地図作りにも例えられる重要なプロセスです。

クライエント一人一人の問題や状態を個別に捉え、オーダーメイドな介入計画の作成を目指します。仮に介入計画の効果が見られなかった場合、仮説を検討し直し、よりよい仮説を作り直します。

ケースフォーミュレーションは以下の3段階の手順で進められます。

第1段階 問題の明確化

まず、初めにクライエントの問題を明確にします。問題を明確にすることで、クライエントがどのような援助を求めているかを明確化することが出来ます。
例えば、「生きている意味がわからない」といった漠然としたクライエントの訴えの場合でも、臨床心理士とクライエントでやり取りを重ねることで「今の仕事が嫌い」など具体的な理由に導き、どのような変化を望んでいるかを明確にします。

問題を明確化するために~初回面接~

「初回面接」とはクライエントと臨床心理士が初めて直接接する面接であり、クライエントが臨床心理士のもとで問題解決に取り組みたいと思えるような信頼関係を築くことが重要になります。
初回面接では、問題を明確化するために情報を収集することが目的となります。面接の初めは来談動機などについてクライエントに自由に語ってもらいます。面接の後半では得た情報に補足したい部分や語られなかった情報について臨床心理士が質問します。

また、クライエントの語る内容は問題そのものではなく、問題の結果として起こっている事であったり、問題の一部でだけであったりすることがあります。臨床心理士は問題の核心を見極めるために成育歴や家族歴などの基本的な情報を丁寧に収集して、問題の本質を捉えます。
このように臨床心理士には「クライエントの情報を正確に聞き取ること」が求められます。

第2段階 仮説の探索

第2段階では問題を改善するための仮説を探索します。臨床心理士はクライエントの語る様々な問題(例:心理的苦痛、問題行動、人間関係など)の中から介入の対象とすべき重要な問題を見極めます。
そして、問題の発生要因と維持要因や問題を改善させるポイントを絞り込み、仮説を立て、その仮説の裏付けの為にアセスメントを行います。

なお、裏付けのための情報収集法は3種類あります。

仮説の探索の為に①~面接法~

面接法とはクライエントと直接会って話をしながら、アセスメントの為のデータを収集することです。臨床心理士がクライエントの回答に対して発展的な問いかけをすることが出来るため、深みのあるデータを収集することができます。また、言葉だけでなく表情やしぐさなど、非言語的な情報も収集することが出来るのが特徴です。

なお、面接法は3種類あります。臨床心理士が事前に想定していた質問項目通りに面接を行う「構造化面接」、話の流れに応じて質問項目を追加したり、変更しながら行う「半構造化面接」、質問項目を決めずに、クライエントに自由に話してもらうのが「非構造化面接」です。問題の仮説を作る際には非構造化面接、仮説の検証を行う際には構造化面接を行います。

仮説の探索の為に②~観察法~

観察法とは、ある状況下で対象となる人物や行動を観察してアセスメントの情報を収集する方法です。日常生活上の行動を観察することが出来るためクライエントの負担が少ない、問題行動の頻度や強度を把握できる、様々なクライエントに適用可能であることがメリットとして挙げられます。
デメリットとしては倫理的な問題からプライベートな行動は観察できないこと客観性が損なわれることが挙げられます。
観察法にも複数の手法があります。場面の違いと観察者の関わり方によって異なります。
場面の違いではクライエントの自然な行動を観察する「自然観察法」と決められた環境のもとでクライエントの様子を観察する「実験観察法」があります。
関わり方の違いでは観察者がクライエントの行動に加わる「参加観察法」とマジックミラーやビデオを通してクライエントを観察する「非参加観察法」があります。

仮説の探索の為に③~検査法~

検査法とはクライエントに何らかの課題に取り組んでもらい、その結果からアセスメントのための情報を収集する方法です。クライエントの性質のどこを調べたいかによって用いる検査法は変わってきます。
知能を調べるときには「知能検査」を用います。図形や数字、言葉、絵などを用いてテストを行います。
クライエントの性格や情緒を調べる際には「人格検査」を用います。また、言語障害や認知症など高次脳機能障害もつ患者の診断や治療計画に用いられるのが「神経心理学的検査」です。

人格検査には「質問紙法」「投影法」の異なる2つの技法があります。
「質問紙法」は体や心の状態についての質問が書かれている用紙にあてはまる答えを回答してもらう方法です。検査の意図が伝わりやすく、採点や解釈が容易な点がメリットですが、反応の自由度が低く、回答が歪められやすいことがデメリットとして挙げられます。
「投影法」は抽象度が図版などを用いい、クライエントが感じたことを回答してもらう方法です。クライエントの無意識レベルの深層心理を把握するのに適しています。有名な検査としてロールシャッハテストが挙げられます。回答が歪められにくい、反応の自由度が高いということがメリットとして挙げられます。一方で検査の解釈が難しい、検査の意図が伝わりにくいなどのデメリットが挙げられます。

第3段階 情報の要約と問題解決のためのフォーミュレーション

第3段階では問題全体の介入に関する仮説を立てます。そして、その仮説をもとにクライエントと話し合い、目標の確認を行います。
そして、実際に介入を行ってクライエントの問題解決に働きかけます。介入の効果に関しては常に検証が必要です。クライエントの変化が滞った場合は第一段階から第三段階を繰り返し、より適切な介入を目指します。

まとめ

アセスメントはクライエントの問題解決をする際に重要な活動です。心の問題の解決はアセスメントから始まっていると言っても過言ではありません。正確なアセスメントの結果により介入法(認知行動療法、箱庭療法など)が決められ、クライエントの問題解決に至るのです。そしてアセスメントから介入という過程はより良い介入法が行われるまで行われるのです。

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