【永久保存版】誰でも理解し使いこなせるシステム思考/システムシンキング基礎・入門(仕組み・自己強化/バランス型ループ等)

目次

システム思考とは、問題を「相互に影響の与え合う要素の集合体」と捉える思考法

システム思考とは、対象(問題)を1つのシステムと捉えて分析する思考です。

システムとは「相互に影響を及ぼしあう要素から構成される仕組み」を指します。

つまり、システム思考とは問題を相互に影響の与え合う要素の集合体として捉える思考法です。

ここではあっさりとシステム思考とは?を述べたため、具体性が「なくなんだそれ?」という感覚かもしれませんが、この記事を読み終わった頃に最初の定義であるこの段落を読み直すと、

問題を相互に影響を与え合う要素の集合体として捉え、分析する思考

という定義が腹落ちすると思います。現時点でピンとこなくてもこのまま読み進めてみてください。

システム思考が苦手?!センスがないのではなく、正しい知識・方法論を知らないだけ

よくシステム思考のお話をさせていただくと、「ループ図がうまくかけないんですよね。私にはセンスがないようです」「ループ図を書くにはセンスが必要だとかんじます」

そんな方々にこの記事を読む前にお伝えしたいことがあります。
システム思考は難しいものではなく、正しく学び実践すれば誰でも使いこなせるようになるということです。

この記事や動画コンテンツを学ぶことにより、システム思考というものが具体的にどのようなもので構成され、どのように使っていけばよいのかがわかるようになります。
漠然とループ図を書こうとして書けないという状態から、ループ図のルールに従い描くことが可能となります。

システム思考に苦手意識を持っている方に関しても、この記事だけは読みすすめてみてください。

なぜシステム思考が世の中に必要とされているのか?必要とされる2つの理由

この記事にたどり着いたあなたのように、昨今、システム思考は脚光を浴びています。
なぜシステム思考が世の中から注目を浴びているのでしょうか?
それは従来のロジカルシンキングと呼ばれる問題解決法では、実現/解決できないものが分かってきており、システム思考ではロジカルシンキングで解決できない問題を解決できるからです。

1.従来の局所的な問題解決法では、長期的な変革・構造的な変化を生み出せないため

従来の局所的な問題解決型の思考法では、1つの問題を分解し課題を洗い出し、ときには優先順位をつけながら、個々の課題を解決していけば問題が解決されました。

しかし、局所的な問題解決はときに応急処置的であり、問題を生み出している仕組みに目を向けなければ解決できない問題もあることが表出してきているのです。

2.要素が複雑に絡み合い、相互に影響を及ぼし合う問題が増えているため

以前は問題を分解しブレイクダウンしていき、それぞれの課題を解決すれば全体の問題が解決されることが主でした。

しかし、現代では要素が複雑に絡み合っているため、ブレイクダウンした課題を解決した際に、別の課題が出てきたり、課題を解決することで別の課題がより深刻になってしまうなど、要素と要素の関連性も考慮した問題解決が求められています。

詳しくはロジカルシンキングとシステム思考(システムシンキング)の違いを御覧ください。
↑ただいま執筆中

システム思考は万能?!

また、システム思考養成講座の受講者の中には、システム思考は万能薬であると考える方もいらっしゃいますが、それも大きな誤りです。

問題の種類に応じて、ロジカルシンキングが効くものもあれば、システムシンキングが有効なものもあれば、水平思考が適している問題もあります。
問題に応じてロジカルシンキングとシステムシンキングなど使い分ける必要があります。

そのため、システム思考の特徴を理解し、システム思考がよく効く問題を把握しておくことが重要です。

システム思考を学ぶ上で重要な3つのポイント

ここから具体的なシステム思考について学び、いくつかのループ図を書けるようになっていただきますが、
その前にシステム思考の根本的な3つのポイントについて共有させてください。

これらはシステム思考の特徴ともいえ、ループ図を書く上で意識しなければならないポイントでもあります。

1.構造~問題は特定の原因ではなく、構造的な結果~

システム思考のシステムは前に述べたように複数の要素がつながった仕組み・構造と言いました。より正確に表現すると、構造とは複数の要素の因果関係を示したものとなります。

そして、システム思考では、問題や課題などの結果は、特定の要素が原因ではなく、構造の振る舞いが結果を生み出すと考えます。

特定の犯人探しではなく、構造上問題が起きているに過ぎないと考えるのです。
「問題=特定の原因が存在」というパラダイムから、「問題=構造的な結果」というパラダイムへと思考を変化させる必要があります。

2.遅れ/遅延~短期ではなく、長期で考える~

構造は多くの要素が因果関係で結ばれている集合体ですが、因果関係には時間軸があります。

原因が結果が起きる。この原因⇒結果は同時に起こるものもあれば、大きな遅延を伴うものもあります。

因果に大きな遅延がある場合は見過ごされることが多く、短期的にはうまく回っているようにみえるシステムでも、長期的に不具合を起こす場合などがあります。

3.フィードバック

要素の因果のつながりの結果、元の要素に対して影響を及ぼしていることが多々あります。
システム思考に慣れ親しんだ人であれば、真っ先にループ図を思い浮かべますね。

入力(原因)して出力(結果)されたものが、回りに回って入力(原因)に影響を与える現象をフィードバックと呼びます。

要素A/B/Cがループ図としてつながり要素Aにフィードバックされている例

要素と要素の関係性:因果とは何か?

ここからは具体的なシステム思考の方法を学んでいきます。

システムは複数の要素が因果の関係でつながる仕組みのことを指しますが、因果とはなんでしょうか?

AとBの間に原因と結果の関係があることを、因果と呼び、システム思考ではこれをA→Bと表します。

ルール①:因果とは原因と結果であり、片方が変動すればもう片方も変動する。

食べる量(原因)→摂取カロリー(結果)

昼食のご飯の量を大盛りにして増やせば、昼食の摂取カロリーは増えます。
逆に昼食のご飯の量を少なめにすれば、昼食の摂取カロリーは減ります。

このように因果の関係であるため、片方が変動すればもう片方の要素に影響を及ぼします。

食べる量が変動すれば摂取カロリーが変動する例

ルール②:因果は原因が先で結果が後。矢印の向く方向に時間軸が流れている

これも当たり前のルールですね。

食べる量(原因)→摂取カロリー(結果)
という因果があった際に、摂取カロリーが増えるから食べる量が増えているのではなく、食べる量が増えたから摂取カロリーが増えるのです。

矢印の元である原因が時間軸として先であり、矢印の先の結果が時間軸として後となります。

食べる量と摂取カロリーには矢印の方向へ時間軸の関係がある

因果には正の関係(リンク)と負の関係(リンク)がある

因果には正の関係と負の関係があります。
※正式なシステム思考では関係をリンクという呼び方をしますが、この記事では専門性よりもわかりやすさ・実践性を重視するため関係と呼びます。

因果における正の関係とは、原因が増えれば結果が増え、原因が減れば結果が減るという関係性を指します。

例えば、顧客数と売上の関係性を考えてみると、
顧客数が増えれば、売上は増えます。顧客数が減れば、売上は減りますね。

よって顧客数⇒売上は正の関係となります。
要素が正の関係があるとき、要素と要素に矢印を書き、結果のほうに+と記入します。

観客数と売上の関係。観客数があがると売上があがる正の関係となる。

これは要素Aと要素Bが正の関係であることを示します。

逆に負の関係になると、原因が増えれば結果が減り、原因が減れば結果が増える関係性を指します。

例えば、税率と消費の関係性を考えてみましょう。
税率があがると人々は消費を控えます。つまり税率が+であると、消費は-となるのです。
これが負の関係(負のリンク)です。

負の関係(負のリンク)では、要素と要素を矢印で結ぶ際に、結果側にマイナスの記号をつけます。

税率と消費は負の関係。税率が上がれば、消費は冷え込む関係である。

正の関係(正のリンク)及び負の関係(負のリンク)をまとめると下記のようになる。
正の関係は原因と結果の動きが一致していて、負の関係では原因と結果の動きが反対となっている。
※画像は筆者のコンテンツである「120分でマスターするシステム思考基礎講座」より抜粋

正の関係では原因と結果の動きが一致し、負の関係では原因と結果の動きは反対となる。

時間軸によって正の関係にも、負の関係にもなる現象を学習効果と呼ぶ

要素と要素の関係によっては、時間軸によって正の関係になったり負の関係になったりするものがあります。

例えば、気温と電気使用量の関係を考えてみてください。

気温が上がればあがるほど、人はエアコンをつけるため電気使用量はあがっていきますね。
40度の気温の日よりも、30度の気温の日のほうがエアコンの使用量は少なく、電気使用量も少なくなるでしょう。

夏の場合は、気温が上がれば上がるほど、電気使用量も上がる正の関係

一見、正の関係にみえますが、
逆に気温が下がりすぎるケースを考えるとどうでしょうか?

気温が下がれば下がるほど、同じようにエアコンをつけませんか?
5℃のときよりもマイナス10℃のときのほうが、エアコンの使用量が増え、電気使用は増えます。

冬の場合は、気温が下がれば下がるほど、電気使用量が上がる負の関係

このように一見正の関係であったとしても、負の関係になることもある現象を学習効果と呼びます。

曖昧な因果関係にあった場合には、学習効果の可能性も念頭に置き、要素と要素の関係性に注意してください。

その因果関係は正確か?!ループ図作成時には擬似相関に注意

正の関係にも負の関係にもなる学習効果のように要素と要素の関係には注意を払う必要があります。
要素と要素の因果関係が一見正しくみえるものの、注意深くみると因果関係が成立していない場合(疑似相関)などがよく起こります。

例えば、アイスクリームの売上が上がれば上がるほど、水難事故の件数が増えるとします。
これを正の関係と捉えると、「アイスクリームの売上(原因)により、水難事故(結果)が起きる」という関係性になりますね。

しかし実際は気温が高いから、アイスクリームの売上が上り、水難事故も起きるわけであって、アイスクリームと水難事故にはなにも因果関係はないはないのです。

アイスクリームの例だとわかりやすいですが、身近な問題となると人間は因果関係のないところに因果を見出してしまいがちなので気をつけてください。

自己強化型ループとバランス型ループ

さて、要素と要素のつながりについて学んだあとは、とうとうあなたが一般的にシステム思考と言われて想像されるようなループ図の書き方に入っていきます。

まず、ループとは要素と要素が正の関係や負の関係にてつながり、それがフィードバックされている状態を指します。

要素A/B/Cがループ図としてつながり要素Aにフィードバックされている例

図を見て頂ければ、要素Aから要素Bへ正の関係があり、要素Bから要素Cへ正の関係があり、要素Cから要素Aに正の関係性があります。
要素Aから始まったこのループは、最終的に要素Aに戻ってくる(フィードバック)ことが分かるでしょう。

これがループ図です。また、ループ図には大きく2つの種類があります。非常に重要なので必ず理解してください。

自己強化型ループ

自己強化型ループとは、フィードバックの作用によりシステムがより強化され次第に拡大されていくループを指します。

正のループになる条件としては、
①全ての関係性が正の関係である
②負の関係がループの中で偶数個である
のどちらかを満たしている必要があります。

正のループの例をみてみましょう。一般的な売上から販売へのループです。

自己強化ループでは、要素(売上)が増えれば、フィードバックも要素(売上)が増えるループ

・売上が上がれば利益が上がります(正の関係)
・利益が上がれば、広告が増えます(正の関係)
・広告が増えれば、販売が増えます(正の関係)
・販売が増えれば、売上が上がります(正の関係&フィードバック)

このように売上が上がることで、より売上があがるループが強化されていくことがわかると思います。
これが自己強化ループです。

バランス型ループ

バランス型ループとは、フィードバック作用によりシステムが収束へ向かうループを指します。

バランス型ループの条件は、
①負の関係性が奇数個であること
のみです。

自己強化ループの逆であるため、負の関係性が奇数個であればバランス型ループとなります。
とはいえ、負の関係性が奇数個だからバランス型ループだと言われてもイメージが湧きませんよね。実際のバランス型ループを一緒にみていきましょう。

人口と死亡数のループです。
・人口が増えれば、死亡数は増えます(正の関係)
・死亡数が増えれば、人口が減ります(負の関係&フィードバック)

バランス型ループでは、要素(人口)が増えれば、フィードバックは要素(人口)が減るループ

このように負の関係があることで、人口に対して負のフィードバックがおこなわれ、2つの要素がバランスしていることがわかります。

つまりバランス型ループとは、ある要素から出た影響が、システムの結果、反対の影響として返ってくるループを指します。
(正の関係からスタートすれば、フィードバックは負の関係。負の関係からスタートすれば、フィードバックは正の関係です)

自己強化型ループorバランス型ループの定着度を測る問題

それではここでいくつかのループを示すのでそれが自己強化型なのかバランス型なのか判断してみましょう。

例題①:A君はテレビゲームで負けると、負けたことに必要以上にイライラしてしまいます。
イライラした状態を解消するために、ゲームに勝ちたいとさらにプレイをしますが、イライラにより正常な判断力を失っているA君はゲームのパフォーマンスが落ちてしまっています。
ループ図を作成し、自己強化型ループかバランス型ループかを判断してみてください。

例題②:下記ループ図に関係性を記入し、自己強化ループかバランス型ループかを判断してください。

例題②:費用のループ図

自己強化型ループとバランス型ループの見分け方

見分け方は1つです。条件にもあげた通り、
・負の関係性が偶数個(0を含む)であれば自己強化型ループであり、
・負の関係性が奇数個であればバランス型ループです

負の関係性が偶数個か奇数個かでループの型が決まることに実感が湧かない方のために、具体的な説明をしていきます。

要素Aと要素Bが負の関係性だとします。
そして、要素Bと要素Cが負の関係性だとします。

要素Aと要素Bは負の関係、要素Bと要素Cも負の関係

要素Aが上がれば、要素Bは下がり、要素Bが下がれば、要素Cは上がります。
逆もまた然りであり、要素Aが下がれば、要素Bは上り、要素Bが上がれば、要素Cは下がります。

さてここで要素Bを抜いて考えてみると、要素Aと要素Cが正の関係性ですね。

要素Aと要素Cは結果的に正の関係性となっている

マイナス×マイナスがプラスであるように、負の関係性と負の関係性をつなげると、元の要素と先の要素は正の関係性となっているのです。

つまり、負の関係性が偶数個であることは、正の関係性を指し、
それは自己強化型ループを指すのです。

複数のループによって構成されるマルチループ

実際の問題解決にシステム思考を利用する場合は、複雑に要素が関連し合ったシステムとなることが多いです。
そのため、単純な1つの輪っかのループではなく、複数のループがそれぞれ影響し合うマルチループという状態になります。

販売向上ループとブランド価値向上ループがマルチループとなっている

上記図をみると、先ほどまで紹介していた売上高のループに、広告によるブランド認知のループを足したものとなります。

実際の問題解決にシステム思考を使うときには、より複雑な要素が複雑に絡み合うマルチループとなるため、円の数が5個以上になることもざらです。

とはいえ、マルチループとはいっても、根本はループさらには要素と要素の因果関係のため、焦らずに1つ1つの関係を精査していくことが重要です。

ループ図をうまく書くための3つのコツ

1.因果の関係は直線ではなく曲線で書く

システム思考では全体の仕組みを扱うため、直線で書いてしまうと全体の仕組みとして捉えにくくなります。
一見バカバカしいコツですが、曲線で書くと書かないではループ図の書きやすさが段違いとなります。

2.因果ループは四角等角ばった形ではなく、円形や楕円形の柔らかな形で書く

これも直線ではなく曲線を使いましょうに近いものがありますが、非常に効果があります。
例えば下記2つのループを見てください。内容は全く同じなのですが、円形のほうがシステムとして認識しやすくはありませんか?

直線のループ図よりも曲線のループ図のほうが見やすく発想を柔軟にする

人間は視覚情報に大きく頼っている生き物なので、こういた見え方の工夫がアイデアや議論の質の向上につながります。

3.要素と要素の関係性の飛躍を避ける

ループ図を多く書いていると、要素と要素の因果の関係に違和感を覚えることがあります。
何かしらの違和感を持った際には、その要素と要素は直接つなぐ形ではなく、他の要素が絡んでいるのではないかなどを疑ってください。

例えば、先ほど示した売上のループにおいて、利益と広告費を抜いてみると下記ループになります。

売上⇒販売

売上が上がれば販売があがるというループになりますが、納得感はありますか?
ありませんよね。⇒利益⇒広告⇒という要素の関係性が抜けるだけで、ループの納得感は大きく落ちてしまいます。

ループ図の役割は他人と共有することなので、納得感の低いループは回りを混乱させてしまうことになります。
何かしらの違和感やわかりにくさを感じたら、要素と要素の関係性や因果の飛躍に注意してください。

4.遅延/遅れを記述する

システム思考の大きな特徴の中に、遅延/遅れをあげました。この遅延/遅れをループ図の中では、二重線を引いて表します。

下記例では、研究開発への投資と商品力の関係性を描いています。研究開発へ投資した途端に商品力が上がるわけではなく、かなりのタイムラグの上で商品力が向上します。
システムを考える上で、この遅延を認識することはとても重要です。

研究開発への投資から商品力の向上までにはタイムラグが存在する

このように遅延/遅れがある際には、二重線で表しましょう。今後より複雑なループを解釈する際に、フィードバックにタイムラグがあるのかないのかを判断するために非常に重要な概念となっています。

5.ループに適切な名前をつける

複数のループが重なり合うマルチループの場合は、個々のループに対して名前をつけることが重要です。

チームの中で議論したりする際にも、「○○ループのこの部分」「✕✕ループはこういった影響が・・・」などループ単位で議論する場面が多いです。

個々のループに名前をつけることによりわかりやすくなる例

納得感のあるループ名をつけることは、全体の共通認識を底上げし、システム思考での議論が格段にしやすくなるでしょう。

6.様々な角度からいろんな人と議論を交わす

自分一人で書くループ図は偏ったものになりがちです。システム思考を教える立場である私でさえも、自分自身の個人的な問題などになるとループ図が主観的なものになってしまうこともあります。

また、チームなどでの問題解決にシステム思考を利用する場合などには、階層や部が違う方の視点はループ図に隠れた変数など新たな発見を与えます

積極的にループ図を描き、多くの属性/考えの人たちを巻き込み、議論を重ねてみましょう。

7.ループ図は固定的なものではなく、何度も書き直す流動的なものだと理解する

完璧なループ図が書けたと思っても、先ほどの他人との議論などにより新たな変数や関係性に気付かされることが多々あります。

また、問題によっては変数の見え方を変えたり、納得感を醸成するために書き換えたりなどの作業も必要となります。

「ループ図は何度も書き直すものだ」というマインドはとても重要です。

システム思考による問題解決法の5ステップ

システム思考の定義、そしてそれを他人に伝える際のループ図について述べていきました。

しかし、「結局、システム思考により問題解決をどのように進めればよいのか?」
「具体的に自分が考えていけばよいのかがわからない。思考方法は学んだが、明日から使えない」
などの疑問を持たれている方も多いのではないでしょうか?

ここからはシステム思考にて問題解決をしていく具体的なステップを説明していきます。
どのように問題に取り組めばよいか悩むときはこのステップに従いシステム思考を試みると何かしらのヒントとなるでしょう。

Step①システム思考に向く問題かどうかの確認

まず始めに、問題がそもそもシステム思考を適用すべきか否かを判断する必要があります。

別の記事でも述べたように、思考法には様々な種類があり、それぞれの問題に合う思考法があります。
ロジカルシンキングに合う問題もあれば、システム思考が合う問題もあります。
「ロジカルシンキングとシステム思考の違い」(鋭意作成中)

まず始めにすべきことは、システム思考を使うべき問題であるか否かを判断することです。

システム思考に合う問題の2つの特徴

  1. 要素が複雑に絡み合い、相互に影響を与えあっているか
    冒頭のシステム思考の紹介の中で、【システム思考は、問題を「相互に影響の与え合う要素の集合体」と捉える思考法】と述べました。
    ロジカルシンキングとシステム思考の違い(鋭意作成中)の中でも述べましたが、要素に相互影響がなく単純な場合は、ロジカルシンキングのロジックツリーなどを活用することで簡単に解決することも可能です。
    ロジックツリーを活用した際に、個々の要素が相互影響があるなどの場合にシステム思考の出番となるのです。
  2. 問題が構造的な問題であること
    構造的な問題である場合、システム思考は他の問題解決方法以上にワークします。構造的な問題では、要素が相互に影響を与え合い循環し、問題が繰り返し繰り返し表出します。
    この【要素が相互に影響を与え合い循環し、問題が繰り返し繰り返し表出】という状態を多くの人達に共有しやすいような形が、ループ図というツールとなります。
    逆に問題が構造的ではなく、単なる1対1対応のものである場合は、ループ図も書くことができないため、システム思考の出番はないと考えてよいでしょう。

Step②時間軸分析~問題の時間軸を決定する~

問題の選定を終えたあとは、その問題の時間軸について考えていきます。
問題の時間軸が違えば、問題自体が全く別のもののように見えることが多々ある。

例えば、地球の気温の推移を示しなさいという問いがあったとします。
あなたはどのように考えたでしょうか?

地球の気温と言われると、真っ先に地球温暖化が思い浮かぶかもしれません
近年(1880年~2000年)の気温の変化を、調べてみると下記のような推移となります。

近年の温度変化(wikipediaより)

みなさんのご想像どおり、綺麗な右肩上りのグラフに見えますね。
それでは、時間軸を極端に伸ばしてみるとどのようなグラフになるか想像できますか?

2000年単位に時間軸を広げるとまた違ったグラフとなる(wikipediaより)

近年に関しては同様に右肩上りですが、全体で考えると氷河期なども存在することがわかります。
(地球温暖化の影響等はこの場では議論しません)

このように問題解決に際して議論する際には、問題の時間軸についての認識を合わせることが重要です。
特にシステム思考では、ループ図の中にも遅延・フィードバックといった概念があるため、どの程度のスパンでそれらをどこまで捉えるかというのは非常に難しい問題となっています。

5W1Hで時間軸の変化を捉えるフレームワーク【レファレンスモード】

時間軸を分析する上で、ぜひ活用していただきたいフレームワークがあります。レファレンスモードと呼ばれるフレームワークで、時間軸を作成する際に5W1Hに沿って問いをぶつけること手法となります。

Who:誰の視点の時間軸か
What:何をみているのか(縦軸の変数)
上記2点をまず設定します。誰にとって、横軸に時間を取った際に問題もしくは問題と関連する変数がどのように変化するかを捉えます。

次に、過去の推移をイメージしながら、When(現時点)までの推移を記載します。(実際のデータであるとなお良いです)

過去から現在までの推移がなぜそうなったのか?(Why)の理由を紐解き、それが何も介入がない場合今後どこに(Where)向かうのかを考えていきます。
※介入のない推移(Where)は点線で記します。

そして最後に将来どのような推移にしていけばよいのか(How)という点について考えます。

5W1Hによって問題を明確化していく

このように5W1Hによるリファレンスモードを活用することによって、問題設定時点で現状とこれまでの推移とその理由、そして目指すべきゴールを効果的に共有することができるのです。

Step③ステークホルダー分析~問題の関係者を挙げる~

問題の時間軸を決定した後は、ステークホルダー分析により問題に関連する関係者を考えていきます。

様々なステークホルダーがそれぞれの目的や役割を持ってシステムに関与しています。
それらのステークホルダーを深く理解することによって、各ステークホルダーが求めているものや不満をいだいているもの、さらにはシステムに影響するような主要なループ図の要素の根源となっています。

そのため、問題・システムに対するステークホルダーと関係性を出してみることにより、ループ図の作成に一歩近づくこととなるのです。

ステークホルダー分析Step①:ブレインストーミング

ステークホルダーをより多く抽出する際には、複数の立場の違った視点を巻き込んだブレインストーミングが有効です。
ブレインストーミングのやり方(鋭意作成中)

ステークホルダー分析Step②:グルーピング

ブレインストーミングによりステークホルダーの数が膨大になった場合には、ロジカルシンキングにて似ている集合をグルーピングしていきましょう。
大分類>中分類>小分類というように似ているものをグルーピングすることでステークホルダーを可視化しやすくしていきます。

ステークホルダー分析Step③:各ステークホルダーの目的・役割/何を得たいのか/何を嫌がるのかを整理する

グルーピングごとにそれぞれのステークホルダーの目的・役割/何を得たいのか/何を嫌うのかを整理していきます。

システム思考では問題に対する主要な構造・ループを示していく必要があるが、このように各ステークホルダーの目的・役割等を整理することによって、
「このループの中のこの要素は、このステークホルダーのこの目的の影響を与えるのではないか」
「このループには、このステークホルダーが嫌がることによりこのような負の関係性になるのではないか」
等の考察が可能となります。

ステークホルダー分析Step④変数抽出~問題の変数となるものを挙げる~

最後にループ図における要素・変数の種を各ステークホルダーから出す作業をします。
ステークホルダーがどのような要素をどのようにコントロールしたいのかを列挙していきます。

Step③にてステークホルダーごとの目的等について理解が進んでおり土台はできているため、水平思考やブレインストーミングなどにより思考を発散させることを重視しましょう。

Step⑤因果分析~問題の因果からループを考える~

ここまでのステップを踏み土台を作ったところで、ようやくシステム思考の冒頭で学んだループ図へと入ります。
ループ図を書く下準備の難しさを体感して頂けたと思います。

システム思考がうまく書けいない方に関しては、①経験が大幅に足りない②ループ図を書こうとする問題がシステム思考に向いていない③ループ図を書く前段の整理ができていないの3種類が挙げられます。
システム思考が書けない3つの理由と対応策へのリンク(鋭意作成中)

疑似相関に注意しながら、各要素・変数を正のリンク/負のリンクで繋いでみましょう。一気にループ図を書くことを目的にするのではなく、1つずつ要素間の関係性を吟味していくことが重要です。

①要素を正の関係(リンク)・負の関係(リンク)で結ぶ
②要素を関係で結んでいきループ図を作成し、自己強化型ループかバランス型ループかを見極める
③ループの集合体として、システムを描く
というステップとなります。

ループ図を作成するときには上記3つのポイントを意識

 

Step⑥仮説構築

とうとう最後のステップとなります。ループ図がかければ最後に仮説の構築を実施します。

システム思考を学ぶ多くの人達が勘違いをし、システム思考を使いこなせない原因は、「システム思考=ループ図を書くこと」という局所的な理解をしてしまっていることです。

冒頭でも述べたように、システム思考は、「問題を相互に影響の与え合う要素の集合体として捉える」思考法であり、問題解決法です。

ループ図は共有するためのツールであって目的ではありません。システム思考の最終的な目的は、複雑に要素が絡み合う問題を解決することです。このゴール地点を忘れてはいけません。

なので、最終的にStep5までで作ったループに名前をつけていき、そのループを元に問題がどのように発生しているのかの仮説立てを実施します。

仮説立ての際の思考法に関して別のコンテンツを作成しておりますので、そちらを御覧ください。

システム思考の基礎を学んだら、あとは実践のみ

さて、ここまででシステム思考の全体像を説明していきました。この記事の内容をマスターしたら、システム思考における座学の基盤はできたといってもよいでしょう。

知識をつけたら実践です。自分の日常生活や職場、世の中のニュースに対してシステム思考を当てはめて実践してみてください。

ループ図を書くのにセンスは必要ありません。この記事のようなしっかりとした基礎の知識と、システム思考を使う経験を増やすことが重要です。

さらに学びたい方向けには、120分でわかるシステム思考基礎講座~システム思考問題集&添削付~をおすすめ致します。

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