こんばんは、寺谷です。
前回、行動の直後に注目し、好子を使って相手にしてほしい行動を増やそう、という話をしました。
例えば、会議で発言してほしいと思ったら、会議で発言した(=増やしたい行動)後に、発言者の社員に対して笑顔を見せれば(=好子を出現させる)、社員たちの発言数を増やすことができます。
※詳細はこちら
では反対に、会議中の居眠りなど
やめて欲しい行動を減らすにはどうしたら良いでしょう?
簡単です。好子ではなく、好子と逆の機能を持つ「嫌子」を使えば良いのです。
今回は、嫌子(けんし)についてお話します!
目次
「嫌子」は目的の行動頻度を減らすこと
好子の反対って言われても、なんなの?って感じですよね。
好子は行動の直後に出現してその行動を強化させました。
嫌子は、行動の直後に出現してその行動を弱化させる刺激です。
行動した後に出現すると、もうその行動をしようと思わなくなるようなものです。
例えば、会議中に発言した時、一瞬で上司に却下されたら発言しにくくなりますよね。
この場合、「一瞬で却下されること」が嫌子になります。
つまり、却下されるという嫌子の出現の結果、発言という行動が弱化しています。
もっと身近な例でいえば、お説教は典型的な嫌子です。
会議中にうっかり居眠りをして上司に怒られたら、もう会議中は2度と寝ないようにしますよね。
この場合、寝るという行動は、上司の怒りという嫌子によって、弱化されるといえます。
反対に、嫌子の消去は、行動を強化します。
例えば、ガミガミと怒る(嫌子あり)上司に、「申し訳ありませんでした」と謝罪する(行動)と、お説教は収まります(嫌子がなくなる=消去)。
そうすると、今度から上司がお説教を始めたら、「申し訳ありませんでした」と謝るようになります(行動の強化)。
つまり、怒るという嫌子の消去により、謝罪という行動が強化されています。
これが、嫌子の消去による強化、ということになります。
※注意※ 嫌子の利用に伴う5つの危険性
嫌子を提示すれば、やめてほしいことをやらなくなる。
だったら、積極的に嫌子を使っていこう!と思ったあなた、ちょっと待ってください。
嫌子の使用には、危険性が伴うのです。
いわゆるブラック企業にありがちな、「詰める」というお説教スタイルは、強力な嫌子の1つですが、部下たちに悪影響をもたらすと言われていますよね。
嫌子による弱化のデメリットついて、1つずつ見ていきましょう。
1.嫌子は慣れる
ガミガミ上司に怒られた時、毎回真面目に反省しますか?
僕はうるせ〜と思って、今日の夕飯のメニューを考えます。
最初は真面目に聞いて反省しても、何度も怒られている内に慣れてきて、”また怒ってるよー” なんて思いながら、「すみませんでした」って謝ってさっさと終わらそうとしませんか?
つまり、嫌子は慣れるのです。そして効果が薄れてしまいます。
これに上司が気づくと、嫌子の威力を強めようと、更に厳しく怒るようになります。
これがエスカレートしていくと、ハラスメント等に繋がる恐れがあり、お互いにとって良い結果を生み出しません。
2.嫌子を回避するようになる
触らぬ神に祟りなし、と言うように、人は、危険人物(嫌子を与える人)とは距離を置こうとします。
また、嫌子を与えられている人が、この危険人物を反撃する可能性もあります。
ストレス反応の一つに、Canon(1871-1945;アメリカ)という生理学者が1929年に提唱した闘争ー逃走反応(fight-flight response)があります。
他者からの攻撃を受けた時や命の危険にさらされた時、人は心身共に戦闘態勢に入るというものです。
攻撃や恐怖などの脅威にさらされた時、人は、不安が高まったり攻撃的になったりします。
つまり、嫌子により弱化をしようとする人に対してこうしたメカニズムが作動すると、人は嫌子を与える人(=脅威)を徹底的に回避したり、逆に攻撃したりする可能性があるのです。
3.学習も阻害されるので、新しいことをしない
いつも上司に怒られていると、部下は上司に怒られたことだけでなく、上司を怒らせないような行動しかしなくなります。
変に気を利かせたり新しい取り組みを試みたりして、上司に怒られたくないですからね。
結果的に、嫌子による弱化は、問題行動だけではなく、新たな行動も減らしてしまいます。
新しいことに挑戦したり創造したりする機会が減ってしまうため、組織全体の損失にもつながりかねません。
4.問題行動を減らせても、すべき行動を示せない
嫌子の出現は、その行動が良くない行動だと伝えますが、適切な行動は教えてくれません。
また、上述のように新しい行動もしないので、適切な行動を見出せません。
こんな経験はありませんか?
何食べたい?と聞いたら、彼女は何でもいいと答えたのに、どんなお店のディナーを提案しても不満げなこと。
「じゃあどこがいいねん!!」って言いたくなりますよね。それと同じです。
このような場合、彼女は、嫌子(=不満げな態度)で不適切な行動を弱化しても効果がありません。
不適切な行動を弱化するのとあわせて、相手ができていない適切な行動(=行きたいお店)を教えた方が、自然と不適切な行動(=気乗りしないお店に行く)を減らすことができ効果的です。
5、一時的な効果しかなく、長期的な解決に至らない
これまで見てきた通り、嫌子による弱化は、慣れたり回避したりすることで、時間と共に弱化の機能が弱まります。
嫌子を与える人に反撃して、関係性が悪くなる可能性もあります。
また、行動の幅が狭まり適切な行動が学べないというデメリットもあります。
そのため、問題行動を嫌子を出現させて弱化しても、長期的な解決は難しいのです。
そうは言っても短期的な効果はあるので、嫌子の使用は必要最低限に留め、効果的に使いましょう。
行動分析をしてみよう!〜随伴性ダイアグラム〜
これまで、好子と嫌子による行動の変化について話しました。
ここからは、問題を把握するために行動分析をする方法を教えちゃいます!
行動分析では問題を考える時、随伴性ダイアグラムを書きます。
たった3つの工程で書けるので、とっても簡単です。
また、ダイアグラムを書くことで、行動の影響を整理することができ、強化/弱化についてよりわかりやすくとらえることが可能になります。
ある部署の職場改善を例として考えてみましょう。
上司は社員にダラダラ残業しないで欲しいと思う一方、社員たちは、定時に退社準備をすると上司に睨まれるので定時には帰りにくい、と感じています。
Step1)直前ー行動ー直後の3つのボックスを横に並べて書きます。
Step2)真ん中の、分析対象となる行動を選びます。
行動ボックスには、状態や目標、気持ちではなく、具体的な動作を書きます。
例えば、「社員が帰りやすい職場にしたい」ではなく、「社員が定時に退社する」と書きます。
「帰りやすい」というのは気持ちの問題ですが、「退社する」であれば、具体的な行動になります。
行動は、動詞であることに注意してください。
この定時に退社する、という行動は少ないので、行動ボックスの横に↓と書いておきます。
Step3)行動の後は、直後の状況の変化を記入します。
社員達によると、定時に退社しようと準備を始めると、上司が睨むのです。
退社の準備という行動の直前にはなかった睨みが、行動直後に、出現しています。
つまり、退社の準備を介して、上司の睨みがない状態(直前)から、睨みがある状態(直後)に変化しています。
これで、随伴性ダイアグラムの完成です。
図からわかるように、上司の睨みが出現することで、定時退社という行動が減っています。
つまり、上司の睨みが嫌子になって、定時退社という行動を弱化していることがわかります。
そのため、この部署では、定時退社をする社員に対して、上司が褒めれば(好子の出現)、社員が定時に退社する頻度が増える(行動の強化)と考えられます。
まとめ:随伴性と行動頻度の変化は4パターンある
これまでお話してきたことをまとめると、随伴性には4つのパターンがあることがわかります。
他人の行動に関する問題を考える時には、随伴性ダイアグラムを使って対象となる行動に対する、刺激の種類(好子/嫌子)、変化の仕方(出現/消失)、影響力(強化/弱化)の関係を整理します。
これらの関係性をしっかり捉えれば、他者の行動を変えたい時には随伴性を変化させればよいと、考えられます。
随伴性ダイアグラムで状況を捉え、他人の行動を変えよう
行動分析、いかがでしたでしょうか。
ややこしかった?
嬉しいことがあれば行動は増える、嫌なことがあれば行動は減る、が基本です。
良いことが起こったり(好子の出現)、嫌なことが無くなれば(嫌子の消去)嬉しいですよね。
反対に、良いものが無くなったり(好子の消去)、嫌なことが起これば(嫌子の出現)嫌ですよね。
この状況の変化によって、行動が増減する、ということです。
他人の行動を変えたい時は、行動分析を活用して自分の接し方を変えるのが1番おトクです。
まずは行動随伴性ダイアグラムを書き、行動とその前後の状況の変化を整理します。
そして、その刺激が好子・嫌子のどちらかなのかを見定め、自分が望む行動へと導いていきましょう。
何度も繰り返す内に、相手は望ましい方向へと行動を変えてくれるでしょう。
きっと効果はすぐに出ます!
行動の直後を重視して相手の行動をコントロールできるなんてすごいですよね!
ぜひ、皆さんも試してみてください!
See you again!