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心理学者バンデューラによる社会的学習理論
社会学学習理論において、アルバート・バンデューラ(1977)は古典的条件付けとオペラント学習付けの行動学習理論に同意しています。
しかし、彼はそれに加えて、2つの重要な考えを追加しました。
- 刺激と反応の間に仲介プロセスが発生する
- 観察学習の過程を通して周りの環境から行動は学習される。
なんだか難しい日本語が使われていますね。詳しくみていきましょう。
モデルを観察し模倣する観察学習
子供たちは周りの人たちがさまざまに行動することを観察します。このことは、有名な「ボボ人形」実験(バンデューラ、1961)で説明されています。
観察対象の個々人はモデルと呼ばれます。
社会において、両親や子供向けテレビ番組に出てくるキャラクター、学校の仲良しグループや先生等、子供たちは多くの影響力のあるモデルに囲まれています。
これらのモデルによる行動のサンプルを与え(男性らしい・女性らしい、社会的・非社会的等)、子どもたちに観察・模倣されます。
子供たちはこれらの人々(モデル)のいくつかに注目し、それらの行動をコード化します。その後、彼らは観察した行動を模倣(真似る)ことがあります。
彼らはその行動が性別に相応しいかどうかにかかわらず行いますが、多くのプロセスにおいて社会がその性別にふさわしいとみなしている行動を再現することがよくあります。
観察学習の3つの特徴
第一に、子供は自分に似ていると感じる人々に対して関心を向け、模倣する傾向があります。その結果、自分と同じ性別の人がモデルとなっている行動を真似ることが多いのです。
第二に、子供の周りにいる人々は、強化または処罰を真似た行動に反応します。
もし子供がモデルの行動の真似をして、その結果が褒められた場合、その子供はその行動を演じ続ける傾向があります。
もしも少女が自分のテディベアに「あなたはなんて優しい子なの」と言って慰めているのを両親が見て褒めると、その子はその行動を繰り返すようになるでしょう。その子の行動は強化(高める)されたのです。
強化とは外的・内的でもあり、ポジティブ・ネガティブにもなり得るのです。もし子供が親や友達から認められたいと思ったら、この認めるということは外的な強化ですが認められたことによる幸せな気持ちは内的な強化です。認めてほしいと願っているので、子供は認めてもらえると信じて行動するのです。
外的に与えられた強化が個人のニーズにマッチしない場合、ポジティブ(またはネガティブ)な強化の影響は小さくなります。強化はポジティブにもネガティブにもなりますが、それがたいていの場合個人の行動への変化を導くというのが重要な要因となるのです。
第三に、子供は誰かの行動を真似るかどうかを決定する際、他人に対して何が起こるかということも考慮に入れます。
人は他人の行動の結果を観察して学びます。例えば、姉が特定の行動に対して褒められているのを観察していた妹がその行動を自分自身も繰り返す傾向があります。これは代理強化として知られています。
これはご褒美に見えるクオリティを持った特別なモデルに対する関心に関係しています。子供たちには自分が同類と感じるモデルがたくさんあります。
特定のモデルと自分を重ね合わせる動機とは彼らが所有したいと思うクオリティを持っているということなのです。
同一化は別の人物(モデル)によって起こり、自分と重ね合わせる人物の行動や価値観、信念、態度を観察し取り入れることです。
社会学学習理論に用いられる同一化という用語は、エディプス・コンプレックスに関連したフロイトの用語に似ています。
例えば、他人の行動を内面化することや適応することはどちらも含んでいます。しかし、このエディプス・コンプレックス期に子供は同性の親の同一化しかできないとするのに対し、社会学学習理論では人(子どもまたは大人)は潜在的に他人を同一化できるというのです。
同一化は多くの行動が取り入れられることがあるのに対し、模倣はたいてい一つの行動を真似るという点で同一化と模倣は異なります。
関心を引き、観察学習が行われるための4つのポイント
SLTは従来の学習理論(行動学)と認知的方法との「架け橋」として説明されることがよくあります。これはなぜかというと、心理(認知)要素がどれほど学習に関わっているかということに焦点を当てているからです。
スキナー(下記事参照)とは異なり、バンデューラ(1977)は人間とは活発な情報処理装置であり自分の行動とその結果の関係について考えると唱えています。
観察学習は認知処理が行われていない限り発生しませんでした。このような心理要素は新たな反応を獲得するかどうか決定する学習過程を仲介(介在)します。
したがって個々人が自動的にモデルの行動を観察し模倣しているのではありません。模倣に先立って思考が存在し、この検討が仲介プロセスと呼ばれるのです。 行動観察(刺激)と模倣するかどうか(反応)の間にこれが発生します。
バンデューラによる4つの仲介プロセス:
- 関心: その行動はどの程度知られている、または気づかれているのでしょうか。行動が模倣されるには、関心を引くものでなければなりません。日常的に多くの行動を観察していますが、それらのほとんどが特筆すべきものではありません。つまり、他者に模倣させるような影響力を持たせるには、関心を引くことが非常に重要なのです。
- 記憶: その行動はどのぐらい記憶されているのでしょうか。その行動は気付かれているかもしれませんが、必ずしも記憶に残っているわけではありません。これは明らかに模倣の妨げになります。
つまり、観察者によってその行動の記憶は後に再現されるために形作られるという点が重要なのです。ほとんどの社会学学習は直接的でないため、このプロセスはそれらのケースにおいて特に不可欠なものです。もしその行動が観察した後すぐに再現されたとしても、記憶の存在は必要となります。 - 再現: モデルが行ったばかりの行動を再現するための能力のことです。日常的に模倣してみたいと思う行動をよく見かけますが、必ずしもそれが可能なわけではありません。 身体的能力には限界があるため、その行動を再現したくてもできないのです。
このことは、その行動を真似てみるかどうかの決断に影響します。90歳の年老いた女性がアイスダンス番組を見て必死で歩こうとするところを想像してみてください。彼女はそのような能力が望ましいものであることは分かっていますが、体力的に不可能なので真似ようとはしないでしょう。 - 動機: その行動を再現しようとする意志のことです。行動に伴うご褒美や処罰のことを観察者は考慮に入れます。もし獲得されるご褒美がそれにかかるコスト(もしあれば)よりも比重が高ければ、その行動は観察者によって模倣されやすくなるでしょう。代理強化がそれほど重要でないと観察者が判断した場合、その行動は模倣されにくいでしょう。
社会学習論に対する懸念点
社会的学習アプローチでは思考プロセスを考慮に入れ、行動が模倣されるかどうかの決定を下す役割を果たしていることを認めています。そのようにして、SLTは仲介プロセスの役割を理解することによって人物学習のより包括的な解説を提供しています。
しかしながら、これは非常に複雑な行動を説明することはできますが、考えや感情を含む行動全体をどのように発達させているのかということについては適切に説明できていません。 私たちには自分の行動に対して多くの認知管理力が備わっており、暴力を認識したからといってそのような行動を再現しなくてはならないということにならないのです。
このような理由から、バンデューラは彼の理論を修正し、私たちが社会経験からどのように学ぶのかをより分かりやすく説明するため1986年に社会的学習理論から社会的認知理論(SCT)へと名前を変更しました。
行動に重要な影響力を与える存在として環境に深く関わっていることから、社会学的学習理論には批判も上がっています。天性または教育どちらかの観点に限って解説しており、こうした試みは人間の複雑さを過小評価しています。行動とは天性(生物学)と教育(環境)との相互作用によるものである可能性が高いのです。
社会的学習理論は全ての行動を説明できるわけではありません。与えられた行動を模倣するような分かりやすいお手本となるモデルが、その人物の人生において存在しない時には特にそれが当てはまります。
ミラーニューロンの発見は社会的学習理論を生物学的に支持しました。研究はまだ初期段階ですが、最近発見された霊長類の「ミラーニューロン」は模倣の神経学的基礎を構成するかもしれません。動物が自分で何かをした場合と、他者の行動を観察した場合の両方において興奮する神経細胞があるのです。
参考資料
Bandura, A. (1986). Social foundations of thought and action: A social cognitive theory. Prentice-Hall, Inc.
Bandura, A. (1977). Social learning theory. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.
Bandura, A. Ross, D., & Ross, S. A. (1961). Transmission of aggression through the imitation of aggressive models. Journal of Abnormal and Social Psychology, 63, 575-582