行動療法の一種である古典的条件付け(事例、実験、教育への活用)

パブロフの犬により発見された古典的条件付け(パブロフの条件付け)

古典的条件付け(パブロフの条件付けとも言う)とは、関連付けによる学習のことでロシアの心理学者パブロフによって発見されました。

簡単に言うと、2つの刺激が組み合わさることにより人や動物に新たな学習の反応を引き起こさせるというものです。

イワン・パブロフによるパブロフの犬の条件反射。最も有名な心理学の実験

ジョン・ワトソンは、古典的条件付け(パブロフの観察結果に基づく)の工程は人間心理のすべての側面について説明することができることを提示しました。

スピーチから感情的な反応までの全てにおいて、刺激と反応の単純なつながりが様々なことを引き起こしています。

ワトソンは心や意識の存在を完全に否定しました。個々の行動の違いはすべて、学習の経験の違いによるものであるとワトソンは信じていました。

彼はこんなことも言っています。

「健康な乳児と、育てる事のできる適切な環境さえ整えば、才能、好み、性質、能力、使命、民族など遺伝的といわれるものとは関係なしに、

医者や弁護士、芸術家から泥棒、乞食まで様々な人間に育て上げることができる(ワトソン、1924、p. 104)

古典的条件付けの3つのステージ

古典的条件付けには3段階あります。各段階ごとに、刺激と反応それぞれに用語がつけられています。

ステージ1:条件付けの実施前

この段階では、無条件刺激(UCS)無条件反応(UCR)を作り出します。

環境における刺激は生得的(あるいは無条件の)行動/反応を生み出していることを意味していて、これはまだ教わっていない自然の反応(条件づけされていない状態)となります。

新たな行動はまだ何も身についていない状態ということですね。

たとえば、ウイルス性腹痛(UCS)は嘔吐(UCR)という反応を生み出します。別の例えでは、香水(UCS)は幸福感や欲望(UCR)という反応を作り出すことがあります。

この段階では人に対する影響のない他の刺激をも含んでおり、中性刺激(NS)と呼ばれます。この中性刺激(NS)になるのは人や物、場所等です。

古典的条件付けの中性刺激は無条件刺激と対になって初めて反応を作り出します。

ステージ2:条件付けの実施中

このステージの期間中、反応を生み出さない刺激(=中性刺激)は無条件刺激と関連付けられ、この時点ではもう条件刺激(CS)となるのです。

例えば、ウイルス性腹痛(UCS)はチョコレート(CS)のような特定の食べ物を食べることと関連付けられることがあります。

また、香水(UCS)は特定の人物(CS)と結び付けられることがあります。

古典的条件付けが効果的になるには、条件付け刺激が無条件刺激の後や同時ではなく、前に発生すべきなのです。

したがって、条件付け刺激には無条件刺激にとってのサインや合図の一種としての働きがあります。

しばしばこの段階では、学びを引き起こすために数多くの状況や試行によりUCSとCSは関連付けられなくてはなりません。

しかしながら、時間とともに関連付けを強める必要がない時に、ある実験的学習が特定の場合に発生することがあります
(食あたりやアルコールの過剰摂取により体調が悪くなる等)。

ステージ3:条件付けの実施後

新たな条件反応(CR)を作り出すため、条件付け刺激(CS)と無条件刺激(UCS)は既に関連付けられています。

例えば、素敵な香水(UCS)と関連付けられている人物(CS)は魅力的である(CR)と思われるようになっています。

また、ウイルスに感染している人(UCS)がさっき食べたチョコレート(CS)は嘔吐(CR)という反応を生み出すものとなっています。

アルバート坊やの実験(人間も条件付され恐怖症を生み出す)

イアン・パブロフは古典的条件付けが動物に当てはまることを示しました。ではこれは人間にも当てはまったのでしょうか?

ある有名な(倫理的には疑わしいですが)実験で、ワトソンとレイナ―(1920)はそうであると明らかにしました。

生後9か月のアルバート坊やに対して実験ではさまざまな刺激に対する反応を試しました。白いネズミやうさぎ、サル、いろいろなお面を見せられたのです。

アルバートは「まったく無反応で無感情」と評されるほど、これらの刺激に対する何の恐れも見られませんでした。

しかし、彼の後ろで鉄の棒をハンマーでたたきつけると、彼は驚き、怖がるようになりました。突然の騒音にアルバート坊やは泣き出したのです。

アルバート坊やが11か月になったばかりの頃、白いネズミを見せ、そのすぐ後に鉄の棒をハンマーで叩きつけました。

これはその後7週間にわたり7回行われ、そのたびにアルバート坊やは大泣きしました。

そうしてアルバート坊やはネズミを見ただけで怯える反応を見せるようになったのです。ハンマーの音がしてもしなくても、彼ははって逃げようとするようになりました。

さらに、そのネズミと同じような特徴のもの(家で飼っている犬や毛皮のコート、脱脂綿やサンタクロースのお面まで!)に対して、アルバートが恐怖感を持つようになったことをワトソンとレイナ―は発見しました。この工程を汎化と言います。

ワトソンとレイナ―は、古典的条件付けにより恐怖感を作り出すことができることを示しました。

恐怖感とはすなわち理不尽な恐れであり、危険性とは不釣り合いな恐怖心のことです。

その後数週間から数か月間にわたりアルバート坊やは観察され、条件付けから10日後には彼のネズミへの恐怖心はずっと少なくなりました。

このように学習反応が消えていくことを消滅と呼びます。

しかし、丸1か月が過ぎてもまだその反応は明らかであり、元の工程を数回繰り返すことによりその関連付けは元に戻ったでしょう。

学校教育・授業での古典的条件付け

学校教育や授業における古典的条件付けの意味合いはオペラント条件付けと比べるとそれほど重要ではありません。

しかしそれでも、生徒がポジティブな精神的経験と学びを関連付けていることを確認するために教師にとっては重要です。

もし生徒がネガティブな精神的経験と学校を関連付けているのなら、このことが学校恐怖症のような悪い結果をもたらすのは明らかです。

たとえば、いじめにあっている生徒は、学校と恐れを関連付けて学習しているかもしれません。

また、在学中に特定の科目を嫌い続ける生徒たちがいることの説明にもなるでしょう。

生徒が教師から授業中に恥をかかされたり罰を受けている場合、特定の科目と嫌悪感の条件付がされることがあります。

古典的条件づけは才能などを軽視している?!

古典的条件付けは環境からの学習の重要性を強調し、天性の才能よりも教育を支持するものです。

つまり、人間のもともと備わっていたものがどうであれ、条件付け(教育)すればどうにでもなってしまうというのが、古典的条件づけの考え方です。

しかしそれは果たして本当にそうなのでしょうか?

もともと備わっている性格や個性は無視していいものなのでしょうか?

人間の行動は、天性(生物学)と教育(環境)の相互作用によるものであると考えられています。

古典的条件付け理論の強みとは科学的であるところです。これは対照実験により取り行われた経験上の証拠に基づいているためです。

例えば、ベルの音を聞いて犬がよだれを出すように古典的条件付けが使われたことをパブロフ(1902)は示したのです。

古典的条件付けは行動の還元的説明でもあります。複雑な行動は、小さな刺激-反応の行動の単位に分けられるためです。

還元主義アプローチの支持者はこれを科学的であると言います。

複雑な行動を小さなパーツに分解するということは、それらを科学的に試すことができるということになります。

しかし、この還元主義者の視点には信頼性が欠けると異議を唱える人もいます。

そのため、還元主義は便利ではあるけれども、不完全な説明を招く可能性もあるのです。

古典的条件付け理論に対する他の批評は、条件付が個人の意思などを無視した決定論的であるということです。

したがって、恐怖症のように古典的条件付けによって学んだ反応に対し、人は何のコントロールも持てないということです。

決定論的アプローチには科学として心理学に対する重要な意味合いがあります。

科学者は物事を予測するのに利用できる法則を発見することに興味があります。

しかし、行動の一般的な法則を作り上げることにより、決定論的心理学は人間のユニークさや人が自分自身の運命を決定する自由を過小評価してしまう恐れがあるのです。

参考資料

Pavlov, I. P. (1897/1902). The work of the digestive glands. London: Griffin.

Watson, J. B. (1913). Psychological Review, 20, 158–177.

Watson, J. B., & Rayner, R. (1920). Conditioned emotional reactions. Journal of Experimental Psychology, 3(1), pp. 1–14.

Watson, J. B. (1924). Behaviorism. New York: People’s Institute Publishing Company

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