自殺を事前に予防する5つの要因~日本一自殺の少ない海部町の研究~

自殺する原因は分かるが、自殺を予防する要因は難しい?!

自殺多発地域について研究し、自殺危険因子(自殺のつながりやすい要因)について考察を述べた論文や研究は世の中に多数存在します。
例えば、いじめの経験や自傷行為歴、リストラ等による経済的な貧困などが自殺率の増加につながっていることは、私達の肌感覚でも納得できるもので、実際の研究でも証明されています。

では逆に、自殺を予防する要因についてはいかがでしょうか?

すぐに思いつかないのではないでしょうか?

そうなのです。私達はすでに起こったものを証明することは容易いものの、起こらなかった要因を探ることはとても難しいのです。
そんな中、今回は自殺希少地域(自殺の少ない地域)である日本の海部町の研究をご紹介します。

日本で最も自殺が少ない町 海部町に自殺を予防する要因のヒントがある

慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科に所属されていた岡 檀(おか まゆみ)さんの研究では、日本で最も自殺の少ない地域である海部町から自殺を予防する要因について明らかにしています。

海部町は徳島県の南に位置している人口3000前後の小規模な町ですが、人口10万人あたりの自殺率が島を除き最も低い地域です。

海部町は徳島県の南に位置する

人口10万人あたりの自殺率の30年間の平均値は8.7人、2015年の日本の平均値が19.7人であることを考えるとその2分の1以下であることがわかります。

ここからは岡氏が結論としている自殺予防因子についてみていきましょう。

自殺を予防する要因①多様性を受け入れる価値観

海部町の住民には他の町に比べて多様性を受け入れる価値観があるのです。

自分にも色々な考えがあるように、相手にも色々な考えがある。だからこそ、いい意味で自分は自分、相手は相手と問題などを分けて考えることができます。

海部町にある相互扶助組織である「朋輩組」では、多様性を受け入れるという意味でとてもユニークです。
他の地域の組織では通常存在する明確なルールや入退会の定めなどもありません。また、普通は強制入会かつよそ者は認めない組織である一方、「朋輩組」では入退会は自由かつよそ者も歓迎という形となっています。

入退会等において最大限に尊重されているのは組織のルールではなく、個人の意思なのです。その背景には、色々な価値観を受け入れるという価値観が根底に流れています。

多様性を認めるからこそ、障害者のための特別支援学級に反対

徳島県の中で障害者支援学級の新設可否を議論した際にも、海部町だけ反対を唱えていたそうです。

「他の生徒たちとの間に多少のち外があるからといって、その子を押し出して別枠の中に囲い込む行為に賛成できないだけだ。世の中は多様な個性をもつ人たちでできている。ひとつのクラスの中に、いろんな個性があったほうがよいのではないか」
生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある より引用

多様性はあったほうがよいからこそ、障害者の方を無理に別扱いするのではなく、一緒のクラスにしていきたい。多様性を良いものとして、捉え活かしていこうという考え方ですね。

多様性を認めることで、気分を害する考え・物事であっても受け流すことができる

それでは多様性を認めるという考え方は、なぜよいのでしょうか?

人間は社会で生活していく中で様々な人間と交流します。あなたの両親や友達、同僚やカフェの店員さん、同じ電車に乗っている見知らぬ人など色々な人と関わっています。

例えば、電車のエスカレーターで右側歩くためにあけるべきだと考えているとします(東京では右、大阪では左ですね)
急いでいるときに右側を歩いて登ろうとしたら、目の前のカップルが右列・左列に広がって乗っていました。

そんなときイラッとしませんか?

でも立ち止まって考えてみてください。右側を歩くために空けるべきというのは一種の価値観です。
もしかしたら前のカップルは、エスカレーターは歩くと危険だから両方空けないで詰めるべきという価値観なのかもしれません。

多様性を受け入れる土壌が心にあると、こうした価値観の違いや考え方の違いを、あっさりと受け流すことができるのです。
「ま、こういう人もいるか」くらいな感覚でしょうか。

逆にこうした価値観の違いや考え方の違いに、1つ1つ反応してしまうと自分の心は貧しくなっていくでしょう。

このように多様性を受け入れることによって、自分とは違う価値観から受けるストレスを軽減することができるのかもしれませんね。

自殺を予防する要因②学歴や肩書ではなく人物本意主義

一般的な社会では学歴や肩書などによって序列が生まれており、そのため下から発言が出にくい構造がありますが、
海部町では学歴や肩書などの装飾品に着目するのではなく、その人自身がどのような人物かに基づき判断します。

権力本意ではなく、人物本意主義を取っているのですね。

その結果として海部町では、教育者の経験のない方が町の教育長に任命されたり、年齢が若くてもリーダー的立場を託されたりといったことが起きます。

年長者であっても威張らない文化

人物本意主義であるため、海部町では年長者であったも若者に対して威張ることはありません。
日本の部活動などでよく見られる「先輩が後輩をしごく」という文化は全くありません

年長者であっても若者であっても、意見や態度に対して評価を重ねる。このような人物本位主義が生きやすさを生んでいるのでしょう。

自殺を予防する要因③自己効力感を高く持つ

岡研究員の実施したアンケートの中に、こんな質問がありました。
「自分のような者に政府を動かす力はない、と思いますか」

この質問では自分がどの程度主体的に動かすことができ、影響を与えられる存在であるとの認識=自己効力感の強さを測っています。

海部町と他の町ではこの数値に大きく差が開いており、海部町の住民は主体的に政治に参画しようとする人が多いのです。

この自己効力感を高く持つことは、自らの積極性や前向きな姿勢に寄与し、自分にはできるという感覚へとつながるのです。

病人の足音が元気?!自己効力感のもたらす効果

とある病院のお医者さんはこういったそうです。

「海部町の患者さんは足音で分かる」

患者の足音だけでなぜ海部町の住民だと分かるのでしょうか?

自己効力感を持っているため、病気に対しても諦めず自分の力で治せるという認識を持つことで、診断を聞きに行く足も元気なようです。

想像してみてください。病院で自分が病気と診断され診察に行く場面を・・。
多くの人達は足が遠のいてしまいますよね。病気か、、嫌だなーと。
海部町の住民は自己効力感から「病気か。やったろうじゃないの」といった気概があるのですね。

自殺を予防する要因④強がらずに弱音を吐く

海部町の住民の特徴の1つとして、強がらずに弱音を吐くというものがあります。

自殺の最も少ない町として有名な海部町ですが、鬱病受診率はかなり高いことで知られています。
自殺の少ない町であれば、鬱病の受診率も少ないと考えがちですが反対の結果が出ているのです。

なぜこのような結果が出るのでしょうか?

それは海部町の方々が無理をせず、病気だと思ったら病気だとしっかりと意識することが関係しています。
また、病気ではなく悩みの場合もそれは顕著に現れているのです。

自殺の多い地域の住民は「他人に迷惑をかけるから」という意識のもと、病気や悩みを一人で抱え込みがちですが、
一方、海部町では「病、市に出せ」の格言の元、病気や悩みについては小さなことから周囲に共有する文化があるのです。

早め早めに周囲に伝えることによって、周りからの支援も素早く得ることができるのです。

軽度の鬱病の状態から受診することにより、重度な鬱に進行する前に食い止めることができるのです。

自殺を予防する要因⑤ゆるやかに人とつながり合う

隣人との付き合い方についてアンケートをとると、海部町の住民は他の町よりも密ではなくゆるやかなつながりを築いていることがわかります。

下記は海部町と自殺多発地域のA町を比べた表です。

海部町のほうが隣人とゆるやかな付き合いとなっている。

海部町とA町の比較

意外にも自殺多発地域であるA町のほうが日常的に生活面で協力という割合が圧倒的に多いのです。
なぜこのような結果が表れるのでしょうか?

人間関係が固定化していないのが要因です。
海部町の人間関係はゆるやかなつながりだからこそ、非常に流動的な人間関係を築いています

それぞれの人たちが複数のコミュニティに所属して、ゆるい関係性を築くことで、
一つのコミュニティにて一時的に居心地が悪くなったりしても、ほかのコミュニティにて楽しむことができるのがメリットです。

一般的な人であればコミュニティの数も少なく、心のどこかで一つのコミュニティから除外される不安を抱えながら生きているのが一般的です。
それに対して、海部町の住民は、複数のコミュニティとゆるいつながりによって、状況に応じた柔軟な人間関係を築き自分らしく居られることが可能なのですね。

自殺予防因子を参考に日常に組み込んでいく

以上、自殺希少地域である海部町の研究をご紹介しました。

自殺予防因子がそのまま日常生活に組み込むことは難しいですが、TIPSをいくつか取り入れるようなことはできるかもしれませんね。

私は自殺予防因子⑤のゆるやかに人とつながり合うをみて、複数のコミュニティに所属することを意識して、
以前は固定化されがちな人間関係でしたら、新しい人間関係であったり、新しいコミュニティを作っています。

自殺を予防する要因④強がらずに弱音を吐くから学び、自分から気軽に吐き出してみるということはもちろんのこと、
自分と関わりのある人たちに対しては、なんでも言ってもいいという関係を築き、不安や悩みを助け合ったりしています。

皆さんも自殺予防因子から自身の日常へ無理のない程度に工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか?

いつか自殺予防因子から考える自殺を防ぐ日常の作り方なんて記事も書けたらなと思います。

それではまた!

 

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ABOUTこの記事をかいた人

性格/思考変革コーチ。認知行動療法、行動科学、コーチング等を専門の分野としながら、エビデンスや心理学に基づき個人の性格や思考を変えていくことのプロフェッショナルです。自身が内向的な性格なこともあり、特に内向的な性格を持つ方の変革を得意にしています。 https://dialog-coach.link/profile/